They tormented me by slow degrees
ミリーナ(ゲフィオン)とカーリャ(ネヴァン)の過去捏造です。捏造大丈夫な方向け。
カレイドスコープ完成間近のあたりをイメージしています。
本編で判明している事柄はそのまま採用していますが、それ以外は捏造だと思って下さい。暗いです。
――それは、私にとって呪いなのかもしれない。
「イクスがいてくれたら……」
これは彼女が唯一零せる弱音であり、救いだ。
カレイドスコープの研究が行き詰まっているらしい。
「フィルが死にそうな顔で帰ってくる。まぁ、帰ってくるだけマシなんだが」と、珍しく困った口調でマークが話していたのは、今日の午後のことだった。
模擬戦がおざなりだったのはそのせいかと気づき、戦いの最中は自分の心くらい律しろと忠告した。返ってきたのはいつも通り軽い返事だったけれど、垣間見えた表情は真剣だった。
カーリャだって、心の奥底ではミリーナも同様なのだろうと考えていた。思考までは読めずとも、彼女の感情の揺れは『わかる』。
夜遅くに帰宅したミリーナは、カーリャの脇をすり抜けてソファに沈み込んでしまった。予想はピタリと的中した。ひしゃげたクッションでミリーナの表情は伺えない。
「お疲れ様でした」
夕飯は食べたのか、今日の仕事は終わりなのか尋ねる。どれも生返事が返ってきた。
最後に、研究は順調か聞くと、ミリーナはゆっくりと顔を上げて、生気のない瞳でカーリャを見た。
「知ってるくせに。マークから聞いたんでしょう」
「すみません。愚問、でしたね」
「……! 違うの。……私こそごめんなさい。カーリャに当たるなんて――最低ね」
いいんです、と言うカーリャの言葉にミリーナはさして反応を示さなかった。
彼女は絶対にカレイドスコープを完成させる。傍から見たらマスターのことを盲信しているように思われそうだか、そうではない。一緒に王都に行き、王立魔鏡科学研究所に入って、血の滲むような努力をしてきた。
すべてはイクスを奪ったビフレストに復讐するために。
ずっと傍で彼女を見てきたのだから、それくらい言っても罰は当たらない。ついでに、早く寝るよう促す権利だってある。
「明日また頑張るために、今日はもう休みましょう」
「私、まだやれるわ」
「ええ、わかっています」
ミリーナの悲願が果たされる日は近い。焦る気持ちもあるのだろう。だからといって、彼女の不摂生を許すことはできない。彼女はすでにたくさんの犠牲を払ってここまできている。
青白い肌も、色素が抜けかけた髪もすべて、彼のために捧げた犠牲だ。
鏡精はなんて無力な存在なんだろうと思う。
生涯をともに生きることを誓っていた相手と同じ土俵に立てるなんて思っていない。たとえ、鏡精がマスターの心の具現化であるとしても、マスターとは別の存在だ。
鏡精だから傍にいることができる。それに甘えている自分がいるのも確かだった。
「……嘘」
「ミリーナ様?」
ミリーナがカーリャの手を取った。骨が軋むのではないかと思うほど、強い力だった。
「嘘よ。本当は挫けてしまいそうなの。失敗ばかりで嫌になっちゃう。こうしている間にも時間は過ぎていく。やっぱり私一人じゃ無理なのよ。イクスがいてくれたら……イクスがいないと、私……」
心の片隅がじくじくと痛み始める。これは受け継いでしまったミリーナの気持ちだ。辛い、悲しいとカーリャの内側から絶望を訴える。
ミリーナのものならば、甘んじて受け入れよう。それが鏡精として正しいのかはわからないけれど、今の彼女には真綿の肯定を与えてあげたい。
だから、自分の気持ちには蓋をして。
彼女の願いが叶う時は、カーリャの願いが叶う時でもあるのだと信じて。
「そうですね。ミリーナ様の隣には、イクス様がいてほしいと、私も思います」
――私じゃだめですか。
時々、なんで私は暗い話ばかり書いてるんだろうと思うときがあります。
好きだからです。
何を思ってこれを書いたのか、正直覚えていないのですが、本編で「イクスがいたら……」と言うミリーナに「カーリャがいるじゃん。カーリャじゃだめなの?」と思ったのがきっかけだった気がします。はい。
イクスの「代わり」じゃなくてね。
ミリーナの隣りにいたのはイクスだけじゃないんだよう…と思ったのは覚えています。カーリャが大好きなので。
CPのつもりもないんですが、書いてる私が女の子大好きなのでそういう方向にいってしまうのは否めないです。
鏡士と鏡精の関係って特殊で特別だと思うんです。そう思いたい。
They tormented me by slow degrees:真綿で首を絞める
(プライベッター転載。あとがきはここのみ)
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