Blue Moon
ミリーナ(ゲフィオン)とカーリャ(ネヴァン)の過去捏造です。捏造大丈夫な方向け。
セールンドに逃げて、王立魔鏡科学研究所に入って、数年後くらいのイメージで書いています。
本編で判明している事柄はそのまま採用していますが、それ以外は捏造だと思って下さい。明るくはないです。夜会話。
「ご一緒しても?」
抽象的な聞き方をしたのは、一回のやり取りで拒否される確率を下げるためだった。駄目と言われたところで引き下がるつもりはなかったけれど。
カーリャのマスターは窓を開け放ち、ぼんやりと空を眺めていた。窓の向こうで、借りているアパートメントと似た建物が暗闇に浮かび上がっている。どれもカーテンが閉められ、真っ暗だった。
一瞬声をかけるのを躊躇うほど、ミリーナから生気を感じられなかった。銀色の光がその顔に影を落としていて、ますます顔色が悪く見える。今日の彼女は、有給消化の名目で半ば強引に帰宅させられていたので的はずれな思考ではなかった。
返された微笑を肯定と取ったカーリャは、食器棚から適当なグラスを取り出して、窓辺へと向かった。
「ミリーナ様がお酒なんて、珍しいですね」
サイドテーブルには、キッチンの隅に保管されていたワインボトルが置かれている。正直いつからあったものなのかわからないが、ワインは熟成させるものという概念があるので気にならなかった。
「このお酒、甘すぎるの」
ミリーナの手元でからん、とグラスが音を立てる。
「それなら、何かつまめるものを用意すれば良かったですね」
カーリャが興味深そうにラベルを眺めているので、ミリーナはひょい、とボトルを取り上げた。当然彼女は怒ったように顔をしかめる。小さかった頃はよくこんな顔で怒っていた。
「私に見せられないものですか?」
ラベルには古典音楽を彷彿させる名前が記されていて、産地は丁寧に塗りつぶされている。カーリャは聡い。これを見られるのは些か都合が悪いので、ミリーナは苦笑して誤魔化すことにした。
「やめておく?」
「いえ、大丈夫です。私は甘い方が好きです」
カーリャがそう言うので、ミリーナはグラスにとぷとぷとワインを注いだ。今のは少し意地を張っていたなと思いながら。
「いい香りですね」
手渡したグラスを軽く回す姿はとても様になっていた。ふと、いつの間にカーリャはアルコールを嗜むようになったのだろうと思う。ミリーナの護衛としてパーティーやら王宮の集まりに参加するようになってからか。
華やかな空間は居心地が悪くて、ミリーナ自身は飲み食いした記憶がほとんどない。傍にはいつもカーリャがいたけれど、彼女の様子を思い出そうとしても靄がかかって駄目だった。
彼女の振る舞いは優雅で、作法も完璧で、剣の扱いもトップクラスで。親友であることは変わらないのに、カーリャが成体になって身につけたのもは全て、彼女がミリーナの傍にいるための『条件』だったのではないかと考えてしまう自分がいる。
絵本に出てくる妖精のように可愛らしい存在だった鏡精はもういないのだ。
「どうかしましたか」
「何でもない。――ああ、月が綺麗ね」
「月、ですか。確かに今日は満月なのでいつもよりも明るいですね。でも、月はずっと綺麗でしたよ」
「そう……忘れていたわ」
研究所は四六時中明かりがついているし、目を通さなければいけない書類やデータがたくさんあった。太陽すらまともに見ていない日々が続いている。一日のほとんどを、文字を、数字を、グラフを目で追っている。
「ミリーナ様は、休息を取ることもお忘れでしたよね。まあ、今回は思い出していただけたので良しとしましょう」
今回は随分穏やかな抗議だなと思いながら、ミリーナはグラスを口に運んだ。
「ごめんね。カーリャがいてくれてよかったって思っているのよ」
「……やっぱり甘いですね」
カーリャも思い出したようにグラスに口をつけて、そう呟いた。
暗い話を書いて楽しいかと聞かれれば、楽しいです。感情がのるからですかね…
過去捏造のオンパレード。本編で明かされないことをいいことに、好き勝手設定を作ってます。楽しいです。
ミリーナは研究者とはまた違うのかもしれないけど、どうしても「研究者は不摂生」というイメージが払拭できなかった結果、大人のリタが常に頭の中にいました。リタごめんね、大好きよ。
色々と捏造した自分好みの設定をろくに説明せずに入れています。あまり考えず、雰囲気で読んでいただければ……と思って「これ」を書いています。
書き始めた日がフラワームーンだったので、月関連を色々と入れ込みました。
Blue Moonはカクテル名より。
わかる人にはわかるやり取りをいれたのは、完全に私の趣味です。
何かが起こるわけでもない、日常の延長線のような話が大好き。
(こちらはプライベッター転載です)
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