寒かったから言い訳できた
ミリーナとカーリャ(過去捏造)もはや分史世界なのでご注意を。
過ぎ去る冬の3題
1.寒かったから言い訳できた(2020/12/23)★今回はコレ
2.春への序曲
3.夢見るぬくもり
お題をお借りしました。ありがとうございます!
「ミリーナ様、駄目です」
「ちょっとだけ。お願い」
「もう充分待ちましたよ」
カーリャが布団を引っ張ると、同じ力でミリーナが抵抗した。寝起きとは思えない力だった。力を弛めた途端に、彼女が布団へ潜っていく。冬の朝日がもぞもぞと動く布団の塊を照らしている。
「私を困らせないでください」
「あら。もっと甘えていいって言ったのに?」
「ーー今はその時ではないです。遅刻しますよ。いい加減、起きてください」
約束の時間まで半刻。いくら彼女の手際が良くても、ここから応接間まではギリギリといったところだ。廊下をダッシュするのだけは避けたい。
カーリャの焦りはミリーナには全く伝わっておらず、当の本人は布団から顔だけを出して、口をとがらせている。
「一人くらい、いなくても平気よ。研究所にも王宮にも鏡士はたくさんいるんだし」
それに私、公休日なのよ。と、彼女らしからぬ発言が出てきて少し驚いた。よほど行きたくないらしい。
会合とは名ばかりの見合いの場。鏡士たちの間で噂の集会は、研究所に勤める鏡士と貴族や実業家などが主な参加者だった。研究にはまとまった資金が必要になる。出資者を募るためのイベントのようなものなので、ミリーナも一応関係者なのだが。
「カーリャはどう思う?」
行くべきかという問いをミリーナはカーリャに投げかける。
正直なところ、行かなくてもいいと思う。寧ろ行かないで欲しいとさえ思ってしまう。ミリーナに言い寄る男を追い払う行為に、相当な労力を必要とするからだ。波風を立てず、地位と権力と財力をもった男をあしらうには、些か話術が足りないと自負している。
しかし、これはカーリャの事情であり、ミリーナにとってはまた事情が異なる。
カーリャはきっぱりと言った。
「勤めなら行くべきです」
「努力義務だったら?」
「ミリーナ様が行くところに、私はご一緒します」
「そうよね。じゃあ行かない。だってすごく寒いんだもの。風邪をひいたのかもしれないわ」
そう言うと、彼女はカーリャの手を掴み、布団の中に引きずり込んだ。
色々と言いたいことはあったけれど、布団の中で子どものように笑う彼女を見たら、会合なんてどうでもよくなってしまった。
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