I’ll pray for you

Eエンド後の9Sと2Bの話。



 彼女の顔が僕と同じ位置にあった。
 それはとても新鮮で、擽ったくて、不思議な感覚だった。
「少し、眩しい」
 アリスブルーの瞳が細められる。彼女の目元を覆う黒はない。それっぽい理由をつけて僕が外してしまったから。

「2B、僕を見て」

 彼女はとても素直だった。何度も目を瞬かせながら視線が戻ってくる。ちょうど僕の側に太陽があるから、眩しいのだろう。
 休憩するには不適切な場所だったかもしれない。気持ちのいい天気だったので、彼女の手を引いて服が汚れるのも気にせず丘の斜面に寝転んだ。
 申し訳なく思いつつも、お願いを取り下げるつもりは無かった。

「9S?」

 彼女は僕の意図を計りかねているようだった。見透かすような目で僕のことをじっと見つめている。
 この瞳に僕は囚われている。
 少しずつ見慣れてきたはずだった。だというのに、彼女の素顔を見ていると鼓動が早くなっていくのを抑えきれない。バイタルの変化に敏感なポッドたちが近くにいなくてよかったと心底思う。

 陽光に照らされた彼女はとても綺麗だった。旧世界の神話に出てくる女神とは、彼女のような姿をしていたのかもしれない。

 長い睫毛、憂いを帯びた瞳。白い肌を際立たせる色づいた唇をもっと見ていたい。
 彼女のすべてを。余すとこなく暴いて、自分だけのものにしたい。
 これは独占欲という感情であることを僕は知っていた。

「2B」

 冷静を装って、彼女の頬に手を滑らせる。
 ほんの少し手を伸ばせば届く距離。それが今の彼女との関係を示している。
「――もしかして嫌でした?」
 触れた瞬間、ぴくりと身を震わせた彼女に、敢えて主語はつけずに聞いた。彼女は首を振って否定する。嫌じゃない、と。
「びっくりしただけ」
 そう言って、胸の前できゅっと握られていた手をゆるゆると解くと、僕の手に自身の手を重ねた。嫌じゃないと言ったことを証明するかのように。
 瞳が揺れている。ゆらゆらとさまよっている。僕は気づかないふりをして、わざと話題を変えた。

「2Bの瞳はとても綺麗ですね」

「瞳? 君と同じ素材で作られた瞳だよ」
 生真面目に尤もなことを口にする彼女がおかしくて、それ以上に愛おしくて。
 彼女が怒るのはわかっていたけれど、我慢できずに笑ってしまった。
「ひどい」
 彼女が僕の手をつねり始める。痛みがこれ以上増す前に、僕はやんわりと彼女の手を捕まえた。ああ、やっぱり怒っている。彼女だっていまだに僕のことを『ナインズ』と呼んでくれないんだから、おあいこだ。

「でもやっぱり、美しいって思うんです。きっと、2Bだからですね」

「よくわからない。君はいつも難しいことを言う。けど、褒められるのは嬉しい。9Sの目も綺麗だよ。いつも私を見ていてくれる君の目がすき」

 思いがけない告白だった。
 ずっとずっと守りたかった大切なひとが傍にいてくれる。きっとこれまでの『僕』の中で一番長い時間を共有している。今はそれ以上のことを望むことがひどく罰当たりなことのように感じられた。
 だけど、すぐに欲が湧いてくる。
「目だけですか?」
「……そういうところは好きじゃない」
 背を向けようとした彼女を捕まえて、瞳を覗き込んだ。感情を隠しがちなアリスブルーに映るのは自分だけ。それがたまらなく嬉しくて、幸せで。
「じゃあ、好きって言ってもらえるように頑張ります」
 いつもみたいに戯けて見せて、こつんとおでこを合わせると、彼女は控えめに笑ってくれた。
 

  

 この壊れた世界で、僕たちは生きている。
 何でもない時間を積み重ねていく幸せを、僕たちは今、噛み締めている。

(Twitterより。Twitterでは画像で投稿)

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