独占欲
ネヴァンとミリーナとカーリャの話。捏造大丈夫な方向け。女の子大好きな人が書いているのを理解できる方向け。
「カーリャ! こんなところにいたのね」
探したのよ、と言うミリーナ様の元へ小さいカーリャが飛んで行く。
一瞬、返事をしそうになった自分に驚いた。
言葉を発しかけた唇を誤魔化すために、小さいカーリャに渡そうとしていたチョコレートを押し込む。口の中で溶けたチョコレートが舌にまとわりついて、息が詰まってしまいそうなほど甘かった。
「先輩がお土産に、チョコレートを買ってきてくれたんですよ!」
「良かったら、ミリーナ様もどうぞ」
「ありがとう、ネヴァン」
それから彼女は、おかえりなさい、と続けた。
やはり小さいミリーナ様も、同じことを言うのだと思った。呼ぶ名前が違うだけで、声色まで同じ。いつからその声音が私の名前を呼ばなくなったのかという問いには、ここにいる誰も答えることができない。
私のことを『カーリャ』と呼ぶ人は限られている。というより今はいないに等しい。
混乱してしまうからと、ここにきてすぐ呼び名を変えてもらった。自分でつけたファミリーネームは、最初こそ口にするのがこそばゆかったが、慣れてしまえば偽名と同じだった。
私はすっかり『ネヴァン』になったつもりでいた。しかし、身体に染み込んだ名前はそう簡単に書き換わったりしない。
私もカーリャだ。
でも、今目の前にいるミリーナ様のカーリャではない。
私には私のミリーナ様がいる。私だけのミリーナ様で、私はあの方だけのカーリャでありたい。この感情は紛れもなく私だけの感情で、我ながら幼い思考だとわかっていても、そう思わずにはいられなかった。
呼び名が変われば、意識が変わる。それは役者と同じだ。ネヴァンと呼ばれれば、私はネヴァンとして振る舞うことができる。ネヴァンでいることを選んだのは私。
ミリーナ様を助け出すことだけを考えて、様々なものを諦めて、切り捨てて、ここまで来た。ミリーナ様を救うためなら、情を捨てること、手を汚すことだって厭わない。これは私の覚悟なのに、その覚悟を揺れ動かすのもまたミリーナ様で。
「どうかされましたか?」
「ううん。なんでもないの。ただ、ネヴァンが戻ってきてくれて嬉しいって思っただけよ」
「――ミリーナ様と、約束しましたから」
そうよね、とほっとした様子で、ミリーナ様はチョコレートを口へ運んだ。彼女の顔がみるみる綻んでいって、私の心に安らぎを与えてくれる。
彼女が笑えば嬉しいし、彼女が望むなら何だって叶えてあげたいと思う。別け隔てなく接してくれる小さいミリーナ様もまた、私にとってミリーナ様なのだ。
「カーリャ」に反応するネヴァンちゃんを書きたかったんだと思う…
いや絶対返事しそうになってしまうネヴァンちゃん、存在してたよね!特に合流してすぐ!とか思ってました(これをメモしたのがだいぶ前)
名前や呼び名はその人がどんな人なのかを表すものでもあると思うので、どんな気持ちで自分のことを「ネヴァン」と呼ばせてるのかなあと。
紛らわしいから、が大半を占めてそうですが、彼女には「カーリャ」と呼んでほしいたった一人の人がいるんだろうなと思う方がロマンチックですね(?)
(ここだけ)
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